SIerの基礎知識

SIerはなくなる?将来性がない?SIerがオワコンではない理由

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「SIerはクラウドに代替されるからオワコン」「SIerはスキルが身につかないから将来性がない」など、SIerに興味を持って調べると必ずこのようなネガティブな言葉を目にします。しかし、SIerはオワコンではなく、無くなることもありません。本記事では、SIerに5年間勤めていた私が、SIerがなくならないと言える理由と将来性について解説します。

SIerは無くならない

結論、SIerはオワコンではなく、無くなることもありません。SIerがオワコンと言われる理由として、クラウドに代替される・スキルが身につかないなど様々な要素が挙げられがちです。しかし、これらはSIerの一部に当てはまるだけで、完全に当てはまることではありません。以下、SIerがオワコンな理由としてよく挙げられる要素とそれに対する反論をしていきます。

SIerがオワコンと言われる理由

クラウドサービスが台頭している

1つ目の理由は、クラウドサービスが台頭しているため、オンプレミスのシステム開発をするSIerは駆逐されるのではないかというものです。確かに、クラウドサービスの市場規模は右肩上がりで成長しているのは事実であり、今後もその流れは継続していくと言われています。2021年3月にIDC Japanが発表したデータでは、2025年の国内パブリッククラウドサービス市場は2020年比2.4倍の2兆5866億円になると予測されました。

しかし、クラウドサービスの市場が拡大することで、SIerが無くなるかというと、そうはなりません。なぜなら、クラウドとオンプレミス(SIer)は対立する概念ではなく、それぞれ役割が異なるためです。

たとえば、システム利用者が数名~数百名のような企業であれば、オンプレよりクラウドのほうが安く、利便性も高くなります。中小企業の場合、会社によっては、情報システム部がない、あるいは数名しかいないケースがあり、オンプレのシステム開発にはとても対応できないためです(システム化構想や要件定義、プロジェクト管理などには多大な工数がかかります)。また、費用もオンプレのほうが高くなりがちです。どんなに小規模なシステムでも、サーバーなどの機器調達やそれら機器を設置するデータセンターなどを契約する必要があるため、必要最低限なお金のボーダーが高いのです。

反対に、システム利用者が数百~数千名以上の企業であれば、クラウドよりオンプレミスのほうが安く、利便性も高くなります。なぜなら、そのような大企業はすでに大規模のオンプレシステムを利用しているのがほとんどであり、簡単にクラウドに移行できないためです。クラウド型のサービスは、企業ごとの業務フローに適合させることができないため、クラウドを利用するには業務フローを変える必要がありますが、大企業であればあるほど、それは困難になります。また、費用についても、クラウドよりオンプレのほうが安くなりやすいです。クラウドサービスにもよりますが、システム利用者数と費用の関係を表すと以下のようになります。

システム利用者数と費用の関係

参考程度になりますが、2019年に総務省が公表したデータによると、日本国内におけるオンプレ型システムへの投資額は、減少推移していません。従来オンプレで開発・利用していたシステムがクラウドに置き換わっていく動きは確かにあると思いますが、それは一部の領域だけで、クラウドとオンプレは共存できる論拠になるでしょう。

クラウドを利用できない企業もある

企業によっては、ガバナンス上、クラウドを利用できないところもあります。ガバナンスとして、データを格納している物理的な所在地を把握しておかなくてはならない(クラウドだとどこにデータがあるのか、明確な場所はわかりません)、情報漏洩があった場合の責任の所在を明確にしなくてはならない等の理由です。このような企業や公共団体は、オンプレのシステムを使わざるを得ないので、その点からもSIerが無くなることはないと言えます。

スキルが身につかない

2つ目の理由は、SIerはスキルが身につかないから、将来性がないというものです。これは誤りです。SIerでもめちゃくちゃスキルを身につけられます

SIerで身につけられるスキル
対人折衝力やプロジェクト推進力を磨けます。なぜなら、SIerの大きな仕事は、システム開発のディレクションだからです。

たとえば、顧客との交渉事や、プロジェクトメンバーの調達や進捗管理、予算・リスク管理など、顧客折衝から社内調整まで幅広い業務を一貫して推進します。デザインやコーディングなどはパートナーに委託するケースがほとんどなので、Web制作の技術は磨けません(※)が、委託先の選定とコントロールはSIerとしての業務範疇なので、全体を俯瞰して調整していく能力が身につきます。私が勤めていたSIerでは、新人研修のときに「SIerの仕事はプロデューサーだ!」と教えられましたが、非常に的を射た表現だと思います。

SIerでも、最低限のコーディング知識は必要です。なぜなら、コーディングの知識がないと、パートナーを管理できないためです。

パートナーと仕事をする際は、パートナーから費用・作業見積りを提示されたり、パートナーのプロジェクト進捗を管理したりする場面がありますが、自身にコーディング知識がないと、パートナーが提示した数字の妥当性(見積り金額が高すぎないか、作業バッファを積みすぎていないか等)がわからず、その結果、プロジェクトの進捗管理もできません。

SIerで身につけられないスキル
Web制作の技術(デザイン・コーディングなど)は身につけられません。業務の一環として、Web制作スキルに触れる機会はありますが、実用的なレベルで習得することはできないでしょう。

なぜなら、SIerとしての大きな仕事は、システム開発のディレクションであり、自分が職人のように手を動かすことではないためです。様々な強みを持つ人を集めて、その人たちを管理するのがSIerの役割になります。
対人折衝力やプロジェクト推進力は、SIerに限らず、様々な業界業態で役立つスキルです。Web系がスポットライトを浴び始めてからは、“スキル=Web制作の技術”と定義づけられ、「SIerだとスキルが身につかない」と言われることが多いですが、そもそもSIer とWeb系ではスキルの方向性が異なります。SIerでもスキルは身につけられますし、将来そのスキルが腐ることはありません。

労働環境が悪い

3つ目の理由は、SIerは労働環境が悪い(薄給・労働時間が長いなど)から、将来性がないというものです。結論、この主張は部分的に合っています。SIerとしての労働環境の良し悪しは、そのSIerが元請け(1次請け)なのか下請けなのかによります元請けの労働環境は良く、下請けの労働環境は悪くなりやすいです。

SIerのピラミッド構造

SIerは、上記のような多重下請け構造で成り立っています。元請けであれば、労働時間も短く、休みも取りやすいです。なぜなら、元請けは顧客と直接会話することで、案件の全体像を把握できるうえ、プロジェクトの進行をコントロールできるためです。たとえば、顧客が無理難題を言ってきても、顧客と調整できますし、プロジェクトの進行が遅れそうであれば、無理に間に合わせようとする前に、顧客に相談することで期限を調整することもできます。また、顧客が発注した金額すべてが売上になるため、手元に残る資金も多く、その結果、会社から従業員への還元(給料)も多くなります。

反対に、下請けの場合、労働時間は長く、働き方も融通が利きにくくなります。なぜなら、元請けが顧客と合意した要件・スケジュールを守らなくてはならないためです。たとえば、プロジェクトの進行が遅れそうな場合でも、スケジュールを遅らせることはできません。そのスケジュールは、元請けが問題ないと判断し、すでに顧客と合意したものだからです。また、下請けの売上は、元請けが確保した金額を差し引いたものになるので、相対的に小さくなります。その結果、会社から従業員への還元(給料)も少なくなります。

顧客がシステムを内製化すると、SIerは不要になる

4つ目の理由は、顧客がシステムを内製化すると、結果的にSIerは不要になるので、SIerに将来性はないのではというものです。確かに、顧客内でシステム開発から保守運用まで完結できるようになるなら、SIerは不要になります。

ただ実際、それができるかというと、私は不可能だと考えています。なぜなら、内製化を実現するためのエンジニアを確保することが極めて難しいからです。企業がシステム開発・保守運用を内製化する場合、当然ながら、現在よりも多くのエンジニアを確保したうえで、雇用し続けなくてはなりません。また、その人材は、システム開発のディレクションからコーディングまで対応できるほど優秀である必要があるため、人件費も高いです。

ただでさえ、コストセンターとして社内のコスト削減対象になりやすい情報システム部が、IT人材が不足していると言われる昨今、優秀なエンジニアを確保し続けるかというと、とても現実的ではないと思います。

SIerに勤めるなら元請けできるところに行くべし

SIerに就職・転職するなら、元請けできるところに行くのがベターです。SIerで身につけられる対人折衝力やプロジェクト推進力、良好な労働環境などは、元請けでしか享受することができません。下請けになればなるほど、創造的な業務は減り、身につけられるスキルは少なくなり、労働環境や給料も悪くなります。

基本的に元請けとなるのは大手SIerですが、大手SIerが必ずしも元請けとは限りません。東証一部に上場している大手SIerのなかにも、全案件に占める元請け率が100%のところもあれば、元請け率が30%程度しかないところもあります。元請けできるSIerの見極め方については、ぜひ以下の記事を参考にしてください。

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